Award

受賞作品一覧

京菓子デザイン部門

  • 《大賞》水面下の月

    作:土井 七菜子

    講評:『枕草子』のコンセプトをうまく具現化できています。夏らしい造形で、水の中に閉じ込めた月に様々な物語を想像させます。まるでゴッホの絵「星月夜」のような独特な世界観も魅力的です。実際に菓子へと作りあげる際には素材への理解も必要で、そこが菓子のデザインとしての次のステップになるでしょう。銘にもう一工夫あればさらによい菓子になると思います。

  • 《優秀賞》いとめでたし

    作:高尾 富江

    講評:『枕草子』の「三条の宮におはしますころ」の話をうまく表現できています。意図が素直に形になったデザインで、シンプルながらも透明感や光が感じられ、美しくまとめられています。古典的な「誰が袖形」の造形に新たな工夫が見られる点も評価されました。実作品にする時には素材としての限界があり、デザイン画のとおりにはならないこともあり、その点は次作品に期待いたします。

  • 《優秀賞》熾火(おきび)

    作:塚本 咲実利

    講評:コンセプトが素晴らしく、冬の朝の透明感と同時に、温かみが感じられます。非常に美しいデザイン画からは、シャリシャリとした食感が伝わってくるようです。ただ、素材が指定されていることで、実作段階において腐心した側面もありました。菓子は、素材への探求も求められます。この点をさらに究めることで、新たな京菓子の世界を開拓されることを期待します。

茶席菓子実作部門

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    《大賞》うつろい

    作:園山 武志

    講評:四季を色であらわすという、京菓子の正統な表現法を踏襲しながらも、ハッとする新しさがあります。おだまきの一本一本が美しく並び、その表現力と高い技術力を評価しました。時間をかけて作られた丁寧さは菓子としての完成度とともに、食べる人の心に響くものがあります。また茶席にも合う華やかさも評価されました。

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    《優秀賞》瑠璃の軌跡

    作:鈴木 昌子

    講評:ひときわ目をひく作品。『枕草子』の「瑠璃の壷(=ガラス)」の部分から異国に思いをはせ、和菓子に「洋」のイメージをうまく乗せている点が評価されました。菓子の上にのせる「におい」部分の構成と置き方に工夫があり、新たな京菓子らしさを追求する意欲的な姿勢も高く評価されました。

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    《優秀賞》月光

    作:関根 千賀子

    講評:月夜の川の底の青の美しさを印象的に表現しています。古典的な形状ですが、月光が降り注ぐ動的な表現に工夫が見られ、食べる人の心を清やかにしてくれるでしょう。シャープな断面は技術的にも高く評価されます。銘もシンプルですが、菓子の形状とあわせてオーソドックスであることが、全体として印象的な作品にしています。

学生部門

  • 《学生賞》白貴露(しろきつゆ)

    作:藤本 まどか

    講評:「枕草子」をよく読み込んでおり、コンセプトがはっきりと伝わります。菊花の表現はレースのようにも見え、レトロなかわいらしさが「うつくし」いとの評も。形・味・技術のひとつひとつにこだわりがあり、完成度の高さを評価しました。

審査員特別部門

  • 《京都市長賞》月の夜に

    作:中丸 剛志

    講評:どれか一つをえらぶのは、困難を極めました。「月のいと明きに」で始まる段に沿って、月光の明るさと水面や水しぶきの美しさを、メリハリをよく利かせて表現しています。 実に枕草子とよく合っており、表現が明るく、またその斬新さに心が惹かれました。 社会情勢が不安なこの時期だからこそ、その明るさが素晴らしいと評価いたしました。

  • 《古典の日推進委員会賞》つとめて

    作:藤岡 まき子

    講評:透明感のある錦玉羹で冬の早朝の空気感を表現し、その中に白く化粧した樹木が凛と立つ。「冬はつとめて。雪の降りたるは…」清少納言が感じた情景が目に浮かんでくるようだ。デザイン自体はシンプルだが、その分、想像力を掻き立てるものがある。程よい甘みと食感も好ましく、お茶席との相性もいいと思う。 応募写真でも工夫していたように、菓子自体が「映え」感を出しやすい仕上がりになっている。

  • 《熊倉功夫賞》梔子(くちなし)

    作:濱崎 須雅子

    講評:枕草子の細やかな情感と、文包みをイメージした造形に感銘を受けました。京菓子の特質である象徴性か、羽二重の薄い皮の中に山吹の花の黄色が淡くかすんで見えるという趣向になっていて、大変魅力的に思えました。実作になったときに、意外と平凡な感じになるかもしれません。思い切って、本物の文のように、細長くしてしまうのも一つかもしれません。

  • 《荒木浩賞》白貴露(しろきつゆ)

    作:藤本 まどか

    講評:今回、講演の準備などで『枕草子』を再読したら、清少納言の「白」への嗜好が印象的でした。それで私は今回の審査で、個人としては「白」に注目して応募作を眺め、この作品に目がとまりました。「白貴露」という銘と、それを説明するコンセプトで描かれた「白」と「菊」をめぐる『枕草子』についての分析も面白かったです。本作は、実作部門において学生でただ一人、一次審査を通過して選考対象になった作品でした。作者には、今後も古典と京菓子に関心を継続してもらえたら、と思います。

  • 《家塚智子賞》仲睦まじ

    作:馬場 寛親

    講評:グラデーションの美しさに目がとまりました。極限まで抽象化された造形も端正です。一口、一口味わいながらいただきたくなる作品です。

  • 《榎本信之賞》瑠璃の軌跡

    作:鈴木昌子

    講評:私は毎年デザインの視点で評価させてもらっています。デザインにとって大事なのは、テーマを抽象化したうえで、多くの人が共感するシンプルな具体表現に再構築していくことです。この作品は、テーマをしっかり抽象化して、プロポーションとして明確な「小ささ」表現と、「瑠璃」を京菓子というよりは宝飾品のような表現に展開され、大変魅力的な作品に仕上がっています。このお菓子がふるまわれるときの器や、空間、服装までがしっかりイメージされているように感じられました。

  • 《岡田秀之賞》火鉢(ぱちぱち)

    作:梅田 しろ

    講評:最年少の応募作品。お母さんが書いた説明文のとおり、2歳のしろさんがまだ見たことがない火鉢の火を想像して描いた絵です。楕円形の中に、強く引かれた赤色と黄色と橙のクレヨンは、「パチパチ」という音を描いたのでしょうか。お母さんとしろさんの会話から生まれた、オンリーワンのお菓子であると思い選ばせて頂きました。来年は是非お母さんもお父さんもお友達も一緒に応募してみてください。

  • 《奥田充一賞》日向猫

    作:久永 弘昭

    講評:艶やかな作品の中にあって表現が地味に見えるが、単純な造形と上用饅頭の特徴を利用し作者の表現力は素晴らしい。二つの丸い形を組み合わせた単純な造形と、三角の焼き印、白い生地から透けて見える餡による猫の紋様のみで「猫の日向で丸まって寝ている姿」表現している。また「誰にも阿ねない猫の性格や日向の心地よさ」までも描き出している表現力は素晴らしい。特に目口鼻をつけていないのが良い。造形が極めてシンプルに表現されており、一目みて『猫』とわかるので、銘は『日向』としてはいかがでしょう。

  • 《笹岡隆甫賞》謎とき

    作:佐藤 由紀子

    講評:モノクロームは、鑑賞者の想像力を喚起する。今回のテーマである「ものがたりを食べる」に相応しい作品だ。小さな菓子の中に、日々の出来事、人生の転機、家族の物語が詰まっている。 扇状のシンプルな造形も美しい。奥行方向に異なる素材を重ねることで、深みのある作品に仕上がっている。正面から眺めた時の揺らぎもよい。

  • 《鈴木宗博賞》うつろい

    作:園山 武志

    講評:ひと目見てまず、色合いの美しさに目をひかれました。決して色合いが派手なわけでもなく、パステルカラーの淡い色合いで四季を表現しながら、形は基本をうまく生かして、新しいデザインを作り出している所がよい。おだまきを作る時の糸状に押し出された生地を隙間なく美しく配列させてあり、食べる時にバラバラになるのではないかと思っていたのですが、綺麗に一体化して食べやすく、菓子としては完成度の高い作品であると思います。

  • 《廣瀬千紗子賞》つとめて

    作:藤岡 まき子

    講評:『枕草子』は冒頭で、春夏秋冬の、もっともその季節らしい時刻は、曙であり、夜であり、夕暮であり、早朝であると言い放つ。「冬は」、「つとめて」しかあり得ない。このためらいのなさにも似て、受賞作は、雪の降る冬の早朝に、きっぱりと白一色の端的な形を与え、銘との一体感がすぐれていた。ちなみに、『枕草子』は「ひとりの文学」ではなく「みんなの文学」だといわれる(渡辺実)。「仲間の支えを奥に読みとるべき文」であると。清少納言の感受性は、女房仲間の共感に支えられて、ためらうことなく開かれていた。京菓子もまた、供される場に共感をもたらす。それは、思わずことばが生まれる場と似ているのではないだろうか。

  • 《濱崎加奈子賞》雪峰を望む

    作:松下 僚

    講評:中宮定子の「香炉峰の雪いかならむ」の問いかけに対する清少納言の解。銘に示されているように雪峰を「望む」視線は、「枕草子」で語られる場にいる女房たちの視線であり、食べる人の視線でもある。作品世界を菓子によって共有でき、また菓子が作品への入口にもなっている。主菓子は抽象表現を旨とするが、同時に、食べる人に意図が届くことが重要。「枕草子」の中でも屈指の有名な段ゆえ、さらなる抽象表現も可能だろう。とはいえ、展覧会出品作品としては的確と感じた。そして何より菓子としての美しさを評価したい。

審査員総評

審査員インタビュー

  • 荒木 浩

    国際日本文化研究センター 教授

    『枕草子』は、三大随筆がテーマだった昨年の「古典の日」朗読コンテストでも、中高生に図抜けて人気がありました。片渕須直監督がアニメ化するプランもあるそうですね。ただ今回、審査会で見た作品は、春はあけぼの、あてなるもの、など、対象章段が、少し限定的だった気もします。『枕草子』の世界は多様で、奥深い。終わりの方には「海」の実景が出てきたりもします。

    今年、7月24日の祇園祭後祭の山鉾巡行の日に、有斐斎弘道館で『枕草子』の講演をしました。その時に話したのですが、清少納言は祭りが大好きで、賀茂の祭りなど、競うように見物し、いきいきと描写しています。私は、ロックミュージックのように「グルーヴ」している、と譬えてみました。一方、フィンランド・ヘルシンキ出身のミア・カンキマキという人は、英訳の『枕草子』を読んで魅了され、清少納言を「Sei」と呼んで恋い慕う。そして日本にやって来て、ついに『清少納言を求めて、フィンランドから京都へ』という本を書き、去年、ずいぶん話題になりました。古典もなかなかグローバルです。

    『源氏物語』は、西暦1008年の『紫式部日記』の記事を典拠として千年紀を讃えられ、11月1日の「古典の日」を生み出しました。対する『枕草子』のエポックは、文字通り西暦1000年(ミレニアム)です。長保2年12月16日、出産の翌日に中宮定子が亡くなって、『枕草子』の世界は終わる。細かく言うと、定子が没したのは西暦1001年の1月にあたる、とか、定子の崩年は藤原行成の日記『権記』に24歳と記すが、他の史書では25歳とある、とか、『枕草子』の成立や由来、清少納言のその後についても不明なことばかりで、すっきりしないことも多いのですが、それはそれ。私たちも、カンキマキさんにならって、心の中で「Sei」と呼びかけ、京菓子展の『枕草子』とそのミレニアムを味わうことにいたしましょう。

  • 家塚 智子

    宇治市源氏物語ミュージアム 館長

    今年のテーマは『枕草子』ということで、どのような作品と出会えるのか、楽しみでした。実作部門は応募時に提出された写真の技術、見せ方もアップされており、実際に目にし、味わうことが楽しみでした。デザイン部門もコンセプトがはっきりしていたと思います。全体に応募シートはレベルアップしていると思います。その反面、実際の作品とのギャップがあるものも多かったように思います。写真映りは良いもの、反対に写真はそれほどではないけど作品は良いもの、あるいはこだわりすぎていて、食べにくいものなど。最終的には、実際に味わってどうかという点を評価しました。

    また、『枕草子』という作品のもつ印象のためか、全体にふんわりとやわらかい雰囲気の作品が多かったです。近年の禅や『徒然草』とは異なり、面白みや蘊蓄が欠けていたのが残念でした。テーマを深く掘り下げて挑むことに期待します。

    今回、小さなお子さんの応募、入選があったことは喜ばしいことです。この取り組みが広がっている証しでしょう。

    京菓子を通して、古典を魅力、面白さが、ますます伝わっていけばと願います。

    「京菓子デザイン公募展」、そして京菓子のさらなる発展に期待します。

  • 榎本 信之

    株式会社GK京都 代表取締役社長

    本年も力の入った作品が多く、審査は大変悩みました。

    私は毎年デザインの視点で評価させてもらっています。その視点でいうと今年は少し大人しい作品が多かったと思います。枕草子というテーマが、自然や季節を題材にしていることも多く、京菓子には馴染みやすいものだと思います。それがかえって馴染みのある表現や、記憶にある表現にとどまってしまい、例年のような「完成度より新しさが際立つ作品」が少ない結果になったのかもしれません。

    毎年お話ししている内容ですが、デザインにとって大事なのは、テーマを抽象化したうえで、多くの人が共感するシンプルな具体表現に再構築していくことです。今回のように比較的表現しやすいテーマの時は、抽象化が足らずに再構築してしまいがちのようです。

    そうした中で今回審査員特別賞に選ばせてもらった、鈴木昌子さんの「瑠璃の軌跡」は、テーマをしっかり抽象化して、プロポーションとして明確な「小ささ」表現と、「瑠璃」を京菓子イメージよりは宝飾品のような表現に展開され、大変魅力的な作品に仕上がっています。このお菓子がふるまわれるときの器や、空間、服装までがしっかりイメージされているように感じられました。

    今後とも、守るべきものは守りつつ、常に新しい挑戦をしていただければと思います。

  • 岡田 秀之

    福田美術館 学芸課長

    去年に続き2回目の審査。ワクワクしながら参加しましたが、作品のレベルが上がっており悩みました。素晴らしい作品の数々が実際に展示されるのを楽しみにしております。

  • 奥田 充一

    株式会社memesスクエア 代表取締役

    今年はアバンギャルドさが足りないように思いましたが、その中で、2歳のお子さんの絵が京菓子になったということは一つの発見でした。造形はいろいろ展開できますが、特に京菓子としての味の幅・香りの幅というのがもうちょっと広がってほしいなというのが今回の印象ですね。

    枕草子はみんな中学校・高校時代で習っていますが、実はもう忘れてしまっている世界で、現在の人にはちょっと遠いかもしれません。ただ、昔のものをちょっとまた引っ張り出して読んでみるというのは、いいチャンスにはなると思います。

  • 門川 大作

    京都市長

    まず、有斐斎弘道館の濱崎館長をはじめ、職人さんなど、京菓子展の開催に御尽力をいただいた全ての皆様に感謝申し上げます。

    「およそ1,000年前に著された『枕草子』を読んで、お菓子を作ろう。」

    このような催しを実現できるのは、世界の中でも、悠久の歴史を誇り、文化や季節感を大切にしてきた京都という街しかないと感じます。

    2歳のお子さんからベテランの職人、あるいは学生など、様々な方々が、枕草子から感じたことを、感性豊かに京都が誇る京菓子として表現されている。枕草子の素晴らしさと同様に、感銘を受けました。

    さて、今般、「京料理」が登録無形文化財に登録される見込みです。また、「京の菓子文化」は、“京都をつなぐ無形文化遺産”に登録されています。令和5年に京都へ移転する文化庁ですが、「食文化」も大切にされるとお聞きしています。これを契機に、有斐斎弘道館をはじめ、皆様のお知恵を拝借しながら、京の菓子文化を国内外に発信してまいりたいと存じます。

  • 笹岡 隆甫

    華道「未生流笹岡」家元

    「ものがたりを食べる」というテーマが秀逸でした。作品の幅も広く、楽しく審査させていただきました。2歳から年配の方まで、幅広い年代の方が応募してくださったのも嬉しいことです。和菓子には、日本の美が詰まっています。和菓子を入口にして、日本の美に、より興味をもって頂けたらありがたいです。

    テーマにふさわしく、作品の背景にある作者の家族の物語や人生まで感じられるような深みのある作品が多くみられました。具体と抽象、いずれの作品も魅力的でしたので、各部門でそれぞれを代表する作品を選びました。思わず「かわいい」と声が出てしまうような、愛らしい作品も印象的でした。和菓子はある程度こういうものだという既成概念がありますが、それを逸脱したデザインが出てくるのが非常に面白いです。こういう審査会ならではだな、と思います。

  • 鈴木 宗博

    菓子研究家

    毎年観させていただいているんですけども、今回は落ち着いた作品が増えてきていました。だからかといって意をてらってというわけでもないんですが、やはりデザインの可能性や面白さというのをこのような場で挑戦する、というのは面白いのではないかと思います。たとえばお茶の世界では、茶席ではあまり顔の付いたものは選ばないんですが、これはお茶席では出せないというような菓子が店先に並ぶと逆に売れることもあります。ターゲットを一つだけに絞ることなく、より幅広い目で見た楽しいデザインがあっても面白いのではないでしょうか。

    毎回難しいテーマですが、そのテーマの中で、硬い内容でくるか、柔らかく楽しい部分を見出してくるか。それは作り手やデザイナーによって変わっていきます。自分に適した良いところを摘んでデザイン化する。本当に小さな和菓子ですが、今まで何100年もそのデザインというのは続いてきているわけですから、そういうのを楽しんで自分独自のものをまた応募していただきたいと思います。

  • 野﨑 貴典

    古典の日推進委員会ゼネラルプロデューサー

    今回初めて審査に加わらせていただきまして、非常に素晴らしい作品がたくさん出されていて驚き、その分選ぶのにとても悩みました。

    特にデザイン部門では、若い人達や学生の方がとてもたくさん応募されていて、古典をテーマにしたものにこれだけのたくさんの方が応募していただいているということに驚くと同時に、私は古典の日推進委員会で活動しているものなので、そのことは大きな喜びともなっております。ただその中で、デザインをそのままもとにお菓子職人の方が作られるので、デザインされた方の思いをそのままうまく表現できる・できないという部分もあるのかなと思い、今回私はデザインを重視して選ばせていただきました。とても皆さんの作品に楽しませていただきました。

    実作部門につきましては、お菓子職人のプロの方が多く、味も食感もすばらしい出来栄えでした。私は和菓子ファンで特にあんこが好きなので、その点でも楽しみました。本当に選ぶのが難しく、まずは自分が食べてみたくなるというところから入り、その次にきれいさや京都らしさなど、そのテーマに沿っているかというようなところを考えながら選ばせていただきました。

    なかなか大変な作業でしたが、また来年以降もまたこういう形で楽しく審査会ができればいいなと楽しみになっております。本当にありがとうございました。

  • 廣瀬 千紗子

    同志社女子大学 名誉教授

    今年もありがたいことに600名近くの方が応募して下さいましたが、レベルも年々上がってきており、大変ハードルの高い競争でした。作品それぞれが非常に美しく、学生さんの応募が多かったことも心強いことだったと思います。

    ただ、茶席でいただくものなので難しいところですが、京菓子の発想を大胆に覆すような作品が、もう少しあってもいいように思いました。できるだけ新しいことに挑戦していただきたいと期待しております。回数を重ねるごとに、我々の要求が高くなって来ており、中には厳しい意見もありましたが、それもこれも年々皆様の実力が上がってきている故でしょう。

    手の込んだ、色も形も細工もよく考えられたものに見とれる一方で、簡素な、なんていうことのないものに心惹かれる気持ちも起こり、その両方が成り立つのが京菓子というものの懐の深さ、幅の広さであると思います。一堂に並んだ中で評価するのは大変苦心しましたが、さまざまな作品が一斉に集まるということが、公募展にとって意義のあることだと思いました。

    今年のテーマは『枕草子』なので、参考にされた本の中に出て来る段が限られているためか、お菓子のテーマも重なっていましたが、古典文学作品に親しみ、アイデアを得ていただければと思います。

  • 濱崎 加奈子

    有斐斎弘道館 館長

    昨今の社会情勢から、身のまわりの暮らしや地球環境について改めて考えさせられる日々。千年前に書かれた随筆「枕草子」を通して、「今」をどう捉え、どう生きるべきかをご一緒に考える機会になればと、テーマを選定しました。季節や自然といった、京菓子にとってはやや表現され尽くされた感のあるテーマは、意匠としての新しさの表現が難しかったかもしれません。逆に、京菓子らしさは表現しやすかったかもしれません。京菓子を「作る」「デザインする」行為は、京菓子の文化を継承するとともに、新たに作り上げていくことでもあります。展覧会をご覧になる方は、一つ一つの菓子作品の背後にある「ものがたり」を読み解く喜びを感じ取っていただければと思います。「ものがたり」とは、菓子のもとになったテーマである枕草子であり、菓子の作者の思いであり、また小豆や寒天といった素材であり、それを菓子にまで作り上げる時間や、その技法を開発した無数の古人たち・・そのすべてが「ものがたり」です。一つの菓子からどこまで「ものがたり」を読み取ることができるのか、挑戦していただければ幸いです。