作:黄 慶浩
参考:与謝蕪村「王子猷訪戴安道図」
講評:シンプルさと、白一色の世界の美しさ、また抽象的な表現における京菓子としての新しさが評価された。形状については、シャープさが新鮮だという意見とともに、単調で硬いという意見もあった。また、デザイン画の時点では、食べたい気にならないという厳しい声もあった。さらに京菓子の可能性を追求してほしい。
作:濱崎 須雅子
参考:伊藤若冲「玄圃瑤華」
講評:もとの若冲作品をよく写し取っている点が評価された。墨拓版画のモノクロームの世界が、三次元の菓子となって生き生きと動き出すようで、作品を見ている楽しさがそのまま体験できる菓子ともいえる。虫食いの葉に注目した点がユニークで、古典をふまえながらも、これまでにない造形となった。
作:松村 一樹
参考:与謝蕪村「富嶽列松図」
講評:デザイン画のとおりに色のコントラストも出て、味わい深い印象の菓子となった。参考作品は、雪空を背景に真っ白な富士山が松林の中に姿をうずめる様子が印象的な画である。その白い富士の姿に考慮した銘にするべきではないか、という意見もあったが、あえて銘を松のほうに持っていくところに面白さがあるという評価もなされた。
作:須賀絢菜
参考:与謝蕪村「紫陽花郭公図」
講評:デザイン画を見た瞬間に紫陽花と感じられたこと、またコンセプトがうまく表現されているところが評価された。花びらの部分を掘って色を透かすという、ユニークな手法には、創菓において相当な技術が必要であったが、見事に成功している。全体の形状も斬新である。今後どのような菓子が生み出されるかが楽しみな作品である。
作:幾世橋陽子(きよはし・ようこ)
参考:伊藤若冲「動植綵絵 老松孔雀図」
講評:空に伸び立つような形状が面白く、ハッとさせられる。らせん状に羽根を組み合わせたバランスが良い。京菓子としての気品と、端正なたたずまいに、作者の感性の豊かさ、菓子創りに対する真摯な心を感じる。孔雀の羽根の色をもうひとひねりすれば、さらに良くなるのではないかという意見もあった。
作:秋山亜弓(あきやま・あゆみ)
参考:与謝蕪村「春雨にぬれつつ屋根の手毬かな」
講評:句の要素がうまく抽出できている。しかも、説明的ではなく、自然と遊びの心を思い出させてくれる、懐かしく、また優しい気持ちにさせてくれる菓子に昇華している。伝統的なものを踏まえつつ、薯蕷の定番であるまん丸をわずかに縦長にしてある点が注目され、そのスリム感が新しい。伝統を損なわずに一歩を踏み出している、その微妙な加減が秀逸だと評価された。水滴も効果的。
作:寺田庄吾(てらだ・しょうご)
参考:与謝蕪村「うづみ火や終(つひ)には煮ゆる鍋のもの」
講評:炉や火鉢の灰にうずめた炭火を「埋み火」という。冬の寒い夜は埋み火をしておくと、朝までじんわりと部屋が暖かい。そんな、炭火をじっと見つめる目。それは、句を作る蕪村の目であり、句を鑑賞する者の目であり、京菓子を手にとる者の目でもある。銘の付け方も上手い。菓子とよく合っている。
作:中丸剛志
参考:伊藤若冲「花笄図天井画」
講評:楊枝を入れるのがためらわれるような美しさを評価した(廣瀬)。 菊というテーマが分かりやすい。二か所に菊の文様を入れるところがユニーク。
作:川合海斗
参考:伊藤若冲「動植綵絵大鶏雌雄図」
講評:この作品の“奇想天外”に、京菓子の未来を感じた(土佐)。 書類審査の時点では、発想は面白いが、リアルすぎて京菓子としてどうかという点で議論が分かれた。実際に京菓子となってみると中央に大きく配されている鶏冠(とさか)の位置なども的を射ており、キレ味のある新しさが評価されることとなった。
作:笹井真実
参考:伊藤若冲「孔雀鳳凰図」
講評:ブルー系統の色をあえて選び、シズル感(おいしそうな感じ)を出すこと、色相を意識したグラデーションの美しさを表現することへのチャレンジが成功した作品だと思う(杉本)。 色の選び方がうまい。菓子としては難しい色合いを、食べたいと思わせるぎりぎりのところでまとめ上げている点が評価できる。
作:永田貴子
参考:与謝蕪村「晩秋遊鹿図屏風」
講評:この菓子を見たとたんに、秋の風情、空気感が一気に広がる感じがした(濱崎)。 適度に抽象化された意匠は、茶席菓子としても秀逸である。これをあえて工芸菓子としたのは、2点ものの作品としての完成度にこだわったためであろう。雌雄の鹿の微妙な差をよく表しており、鑑賞のための菓子という面をよく捉えている。「京菓子としての工芸菓子とは何か」またどうあるべきか、ということを考えさせられ、その意味で、本京菓子展の意義や、「京菓子とは何か」という根源的な問いについても示唆を与えてくれる作品である。