京菓子公募展「手のひらの自然」を毎年拝見しておりますが、素晴らしい取り組みと感じています。千年を超える京の都にあって、茶道や京菓子は、文化芸術の主人公といってもよいと思います。
京都市では、「京の菓子文化」は「季節と暮らしをつなぐ心の和(なごみ)」として、「京都をつなぐ無形文化遺産」に選定しています。
自然を感じ、人々を癒す京の菓子文化は、日本ならではのものではないかと思います。美味しさと美しさと精神性が、手のひらにのるほどの小さな菓子の世界が、茶道や華道のように「菓道」として、さらに継承され、広まっていくことを願っています。
(2018年10月21日 授賞式での市長挨拶より)
今回、初めて京菓子デザインの審査員を務めせて頂きました。
日頃、東京のビジネス社会に生きていると、人として一番大切な「心」を忘れがちになります。
京菓子の世界は、そうした人の「心」を思い起こさせる素晴らしい力を持っていると感じました。
テーマとなった「源氏物語」を掌の中の小さな世界に込めたデザインは、
奥深い魅力に溢れており感動しました。ものがたりを京菓子というカタチへ転換させる発想力、そして発想されたデザインを実際の京菓子へと着地させる具現化力、この二つの夢と匠の組み合わせが人の「心」を動かします。
これからも、京菓子の更なる展開に期待致します。
源氏物語を題材にした色鮮やかな京菓子の数々が並ぶさまは、絵巻物を見ているように美しく、楽しい。
意匠はもちろん、味や食感のおもしろさなど、それぞれに工夫を凝らしており、見ごたえがあった。
源氏物語の文脈を読み解き、しっかりとしたコンセプトを創り、デザインに反映した力作が多くみられた。
品のよい色調で構成されたグラデーションやアシンメトリーの妙味など、色彩や意匠で表現された「移ろいの美」に、特に興味をひかれた。それらの日本的なデザインは、いけばなにも通じる。
『源氏物語』という長大なテキストが、「京菓子」という小さな立体物になるのか、とにかく楽しみでした。
評価をする上で、茶席で「食べる」ということを意識しました。『源氏物語』にはたくさんの登場人物がおり、ひとりひとりにドラマがあり、喜怒哀楽があります。どれも印象的ですが、他の美術工芸品と異なり、「食べる」ということを考えると、できるだけ負の要素は避けた方が良いと思いました。そして、ひとつの京菓子を手にしたとき、場が和むだけではなく、京菓子という凝縮された空間から、物語の世界、あるいは京菓子の魅力、可能性が広がるような作品を選びました。
『源氏物語』が世に出て以来、先人たちは、この物語と向き合い、新しいものを創り出そうかと、挑んできました。源氏絵、源氏詞、源氏香等々、「源氏」を冠し、物語を象徴する文化も育まれました。これらを用いれば『源氏物語』を暗示するという知識が共有され、規範と革新のなかで、数多の芸術が創り出されました。今回の作品には、そうした「お約束」「記号」が少なかったのが、正直意外でした。と同時に、お約束がなくても『源氏物語』であることには変わらないと思いました。これからも『源氏物語』は創り出されていくでしょうし、そんな『源氏物語』の強さを、京菓子を通して再認識しました。
「京菓子」の可能性が、ますます広がっていくことに期待したいと思います。
今年のテーマは、世界の古典文学の代表のような『源氏物語』である。作品のボリュームや、文学作品として読み継がれた歴史を考えると、難題ともいえるが、その分、また豊かなイメージが喚起されるだろうと思われた。はたして、応募された作品は形状も、色彩も実にさまざま。多彩なデザインで、京菓子としての風格は保ちながら、ユニークなものが多かった。『源氏物語』五四帖を原文で通読するのは至難だが、現代語訳あり、コミックあり。アプローチの仕方はいくらもある。とりわけ、豪華絢爛な絵巻は見逃せない。さすがに偉大な古典の包容力というべきか、それぞれ自分仕様の源氏菓子に、その人の物語が宿っていた。なかでも、さわやかな色彩、明確な形、さりげないアイデア、素材への配慮、などが感じられる作品が好ましかった。余談ながら、入選作のうち六作品が〈きんとん〉!すべての〈きんとん〉に独自の工夫がみられ、恐るべきことと思った。
全体的に見て、作品のレベルは向上していると思います。
多くの作品が、テーマの『源氏物語』を読み込み、そこから自分なりの感じ方、考え方を打ち出して和菓子として表現しようと努力しているのも好感が持てます。
作品個々を見ると、完成度のばらつきが大きく、特に工芸菓子の部門は、より、具象的なだけに、外観にとらわれて作品になりづらかったようです。
茶席菓子実作部門は全体的に優れた作品が多かったですが、込めようとした思いがまだ十分に表現しきれていない残念なものもありました。一層の努力が望まれます。
今回、全体を見て「源氏物語」と言った題材にすこし作り手が構えてしまい、小さくと言うか、発想がおとなしくなった気がしました。変わったデザインや味が、決して良い訳ではないですが、普段少し違和感があるデザインであっても、タイトルや趣向によってはピッタリと合う物が生み出される物があると思います。
源氏物語を深く知り作っても作意的になりすぎると逆に伝わらない物ができたりと、発想を形にするのは大変難しい事ですが、あらゆる角度から発想を考えるのは何かを作りあげる一番大切な基本ではないかと思われます。
色々悩んで生み出された作品に点をつけるのは苦しい事ですが、多くの良い作品に出合えた事を感謝いたします。
京菓子という、世界にも類をみない素晴らしい文化を<体験>として広く伝えるために始まった京菓子公募展。これまで琳派や百人一首などのテーマで行われたが、「源氏物語」には、日本人の根底に深く響くさまざまな要素が散りばめられていることを、菓子を通して、改めて知らされた思いである。それぞれの時代において常に憧れの対象として繰り返し新たな形で再生されてきた王朝文化が、現代においてもなお確かなエネルギーを携えており、とりわけ菓子にすることによって、それが吹きあがってくるのを見ることができた。それは、古典は生きている、ということである。抽象的な表現として形象化する京菓子には、古典を深く読み込む視点と、幅広く捉えて遊ぶ心の両方が必要と感じている。それは作り手も、受け取り手も、同様である。京菓子展をきっかけとして、源氏物語をはじめとする古典文学の世界に親しみ、またそれを遊ぶ楽しみを知る方がひとりでも増えることを願っている。