襲の色目が美しい作品、目を閉じると瞼の裏に麗しい景色が浮かび上がってくるかのような抒情的な作品、ちょっぴり歪な形状に思わず笑みがこぼれる愉しい作品、……。今年も力作が揃った。万葉集という難解なテーマに対して、真摯に向き合ってこられたのが、作品を見るとよく分かる。特に実作部門に秀作が多い。気になるものは、実際にいただいて審査をした。技術的にも高度な、異なる素材の組み合わせが目を引いた。意匠の素晴らしさはもちろん大事だが、口にしたときに食感、味、香り、いずれにおいてもバランスが大事だと改めて感じた。菓子はやはり目だけでなく、五感で味わうものだと教えられた気がする。
『万葉集』からどのような作品になるのか楽しみでした。 全体を通して、『万葉集』の歌から読みとったこと、感じとったことが素直に表現されているという印象を受けました。作者のコンセプトも銘も奇をてらうことなく、率直なものが多かったです。それゆえ、デザインも色も素材も、自由で多彩で、大変豊かでした。それが特に昨年の『源氏物語』との大きな違いといえます。素直さ、おおらかさ、あるいは素朴さは、『万葉集』という歌集のもつ魅力であり、個々の歌の特徴であるということを、今回の作品を拝見して、改めて認識しました。また、「手のひらの自然」だけではなく、「手のひらの〈宇宙〉」を感じる作品がいくつかあったことも興味深く、『万葉集』とともに、京菓子の可能性を感じました。万葉の歌人たち、お菓子を作る人たち、お菓子をいただく私たちが、お菓子を愛でつつ、対話できる…… それがこの「京菓子デザイン公募展」の魅力だと思います。「京菓子デザイン公募展」、そして京菓子のさらなる発展に期待します。
昨年より「京菓子デザイン公募」を見せていただいています。本年も大変多くの参加者から、熱のこもった作品の応募がありました。今年は審査員という立場で見せていただきましたが、責任重大と思う反面、面白い提案の数々から大変刺激をいただきました。私はデザインという視点で見るとき、「メッセージがシンプル」であることを、重視して評価いたします。「手のひらの自然―万葉集」というテーマに対して、自分の想いや考えを整理できているか、整理したメッセージを最適な方法と技術で表現できているかという視点です。今回受賞された皆さまの作品は、その点で優れており、かつ新鮮でオリジナリティーに富んでおられました。おめでとうございます。今後のご活躍を、楽しみにしております。
今年、新元号「令和」を記念して、『万葉集』をテーマとしたのは時宜にかなったアイデアだと思います。しかし、選考で一番悩んだのは万葉の持つ古代の荒削りな力強さと、はんなりとした古今、新古今的な京菓子のイメージとのギャップでした。万葉の造形をとるのか、古今の造形をとるのか?大いに悩みました。その結果、僕は全体を通してのベストワンに「玉響」を、次点に「令和」を推したいと思います。玉響は万葉集の特徴の一つ長歌から想を得て、「自然と万物の移ろいと亡び」という哲学的な命題を菓子に表しました。そのだいたんな試みに敬意を表します。ただ、墨の色が京菓子にふさわしかどうかは議論を呼ぶところかと思います。次点の「令和」は、作者のタイムリーな感性を尊重しました。デザインは古代にふさわしいシンプルな四角で、試食したところ大変、梅酒の風味が効いていました。けれども、梅酒が京菓子風かと問われると迷ってしまいますが……。
デザイン部門では描かれた絵ではよくわからなかった全体像が、実際に作られてみると説得が増してくる場合がある。その一例が梅花の宴(濱崎須雅子)で、新春の茶席で使ってみたい菓子になった。しかしあくまで絵で評価しているので、選からは外している。茶席菓子部門は全体として非常にレベルが高く、選からはもれたが岡田理歩(審査時の実作の方が数段良い)、笹井真実(審査資料写真の方がよく、審査当日の実作は色が冴えなくてガッカリ)、森真也(審査時の実作は羊羹製と軽羹のバランスが崩れていて魅力が半減)の作品は一級品であると思う。工芸菓子の部門は、レベルが極端に低い。この部門は廃止してもよいのではないか。むしろ干菓子部門として独立させるのもよいと思われる。
私は今回初めてこの京菓子展の審査に臨みました。これまで数々の芸術祭の審査をしてきましたが、食に絡む作品を審査したことがなかったのでとても楽しみであると同時に、どう審査の基準いわば物差しを審査をする私が持てば良いのか?を悩みました。しかしそに不安は審査会場である弘道館に入った途端すっかり消えました。そこにある応募作品である京菓子の佇まいの美しさそれはデザインを超えた芸術作品。まさに太田宗達さんが言う「◯◯グラムの芸術作品」でした。もちろんお菓子なのでその味も評価対象ではありますが私の評価軸の90%はそのビジュアルが醸し出す佇まいでした。私が高い評価を付けた作品は他の芸術分野には無い素材感を生かしたもの、またお菓子でしかなし得ない表現をした作品でした。長い歴史の中で進化した京菓子の表現を現代のクリエイターがどう表現していくのか?このこともこの審査で私が強く期待した課題でした。今年の「万葉集」というテーマからはなかなか新しい表現が生まれにくいとは思いましたが、予想に反して他の芸術分野では見たことのない表現を持った作品もあり、私にとって、とても刺激的な審査となりました。私の心の中の最高賞は残念ながら入賞は果たしませんでしたが、今後期待できる作家だと確信しています。これらの京菓子作品をご覧になるみなさんは お口に入れる前の3分間じっくりアップ(とにかく近くで)&ルーズ(周りの風景の中の佇まい)を見る。それを繰り返し、その後で味わっていただきたいのです。(もしかしたら味わえないかもしれませんが、、) 私も今回それを繰り返しました!