京菓子展「手のひらの自然ー徒然草」2021 審査員インタビュー from 有斐斎弘道館 on Vimeo.
このコロナ禍を乗り越え、京都に、そして日本に伝わる文化を継承させていきたい。そんなことを考えているとき、『徒然草』を読み、深く多様な理解のもとに、それをお菓子に表現するという今回の弘道館の取り組みは、本当に素晴らしいと思いました。
特に若い人、学生さんなどがずいぶん『徒然草』を読み、それぞれが理解し、それをいかにお菓子に表現するかを考えられている点はすばらしいと思います。
多くの方が洋菓子などのスイーツに流れていくような傾向がありますが、そんな中、やはり和菓子の持っている魅力、その素晴らしさを再認識させていただけるこのような取り組みを通じて、私もしっかりと学ばせていただきたいと思っております。見た目を美しく、また食べて美味しく仕上げていただいた職人さんたちにも、感謝申し上げます。
今回のテーマ『徒然草』をいただいた時から、「審査は難いだろう」と予測した。というのは、『徒然草』は200以上の段、エピソードの集積であり、それぞれが意図も、趣旨も、味わいも多種多様で、応募者がどの段を読んで想を得るのかで、作品のイメージもまた千差万別になるだろうと思ったからです。審査結果は予想通りで票がばらけた。私個人は個別の章の内容にこだわらず、徒然の持つ「酸いも甘いもかみ分けた人生経験豊かな奥深さ」のイメージをもって審査に当たりました。当然のことながら、それに京菓子らしい品位と美しさを加味します。実作部門の個別の作品レベルは総体として高かったと思います。しかし、デザイン部門では審査の基準が問われるような疑問点がありました。この部門で問われるのはデザインそのものの美しさではなく、工業デザインと同じで、それが実際に出来上がった時の美しさです。ましてやそのデザイン画が職人さんの手を経て立体として実現できなければ何の意味もありません。今回もその乖離が目立ち、今後、この分野の審査基準について議論の必要を感じました。
しかし、審査員皆さんの真剣な討議で、結果は納得のいくものになったのではないかと思います。
徒然草というテーマは、かなりむずかしかったようで、菓子の趣向としては生かしきれないところがあったかもしれません。しかし、京菓子としては、象徴的な表現の中に新しい工夫があって優秀作品が多かったと思います。ことに見た目の美しさは京菓子の特質で、中には見る角度を変えることで、別の容貌があらわれるなど、面白い創造性も感じられました。
初めての京菓子展審査でしたが、とても刺激的で楽しい体験でした。私の近年の研究テーマの一つに、古典の投影(投企/projection)という現代的な関心があります。二十代から専門にしている『徒然草』と京菓子というのは、まさにぴったり。
この作品をどのように菓子化(可視化)するのか。とても興味がありました。隠者が書いた無常の思想を基調とする『徒然草』はモノクロームの印象がありますが、それが実に多彩な、美しい菓子の姿となって現前する。兼好法師も驚きの光景だったのではないでしょうか。デザイン部門と実作部門と、それぞれ事前の審査資料とはまた別の具体像が並んでいたのも面白かった。職人さんの腕も素敵です。
唯一の心残りは、今回、コロナのせいで、有斐斎弘道館での審査が叶わなかったことかな。また違った菓子姿が見えたかも知れません。皆川淇園については素人ですが、大学院のころ、京都大学附属図書館で貴重書の整理を手伝い、ゆかりの本をたくさん手にした想い出があります。弟の富士谷成章とその子御杖は、専門と身近な国学者です。展示会で訪問します。
今年のテーマは『徒然草』ということで、どのような作品と出会えるのか、楽しみでした。全く想像がつきませんでしたが、力作ばかりで、圧倒されました。ひとつひとつ作り手の思いやこだわりがより明確に伝わってきました。作品と一緒に提出されたコンセプトを読むことも楽しかったです。
京菓子だから、古典だから、こうしなくてはいけないと、勝手に制約して思い込んでいたのは私自身で、京菓子だから、これだけのことができるという自由で大胆な発想を感じる作品が多かったです。なによりも、食感、食後感も印象的で、実際にいただかないと完成しないと感じる作品が、特に今回はたくさんありました。余韻も楽しむことができました。展覧会をご覧になった方も、実際に召し上がっていただく機会があれば、より京菓子の魅力、作者の思いが伝わると思います。
作品を通して、『徒然草』を読み直すきっかけにもなりました。京菓子を通して、古典を魅力、面白さが、ますます伝わっていけばと願います。「京菓子デザイン公募展」、そして京菓子のさらなる発展に期待します。
公募いただいた皆様、ありがとうございました。今年度はコロナ禍にもかかわらず、過去最多の方々に参加いただき、皆様の京菓子に対する想いの強さを感じさせていただきました。作品の内容も、その想いを映しており、大変力の入ったものでした。
今回のテーマ「徒然草」に対して、それぞれの方の解釈を加え、個性的なデザイン表現をされている作品が多かったのは非常に良かったと思います。特に京菓子の最大の特徴でもあるテーマの「抽象化」に対し、しっかり意識されている作品が印象に残っています。
形としてはシンプルに「引き算の美」を追求し、そのシンプルさの中にも、深い物語性を表現しようと努力されている作品が印象に残りました。
アフターコロナの社会には様々な変化が予想されています。京菓子の世界でも、変わらず大切に守っていくことと、人々の心の変化に対応して変わっていくことも無意識に表れているのかもしれません。そうした新たな兆しも感じさせてもらえる作品の数々でした。
今回が初めての審査を担当させて頂きました。最終選考に残った53作品を見ても、応募した方々が『徒然草』を読み込んだ上で、創意工夫を凝らして作られています。京菓子デザイン部門では応募者が描いたデザイン画から職人さんが実際の菓子を作ります。その過程でデザイン画との間に差があるため、審査員の中でも意見が分かれました。実作部門でも茶席菓子という制約がある中で、斬新な発想で作られ、全部食べたくなるような魅力的な菓子に仕上がっていました。
今京菓子展は2015年「琳派」の時よりCD(クリエイティブディレクター)として関わらせていただいておりますが、今回初めて審査員をさせていただくことで京菓子は表現メデイアとしての奥深さや表現力の豊かさにを再認識させられました。
たった一握りの塊ではありますが、人の感性をマルチモーダルに刺激し様々な世界が広がる総合芸術です。
今回は「徒然草」がテーマでしたが、それぞれの作品を通じて、徒然草のように、作者の意識の流れが次々と変わる様子が感じられ、多様な感性や多面的な価値観に巡り合えたような気がします。
是非このような小さな菓子の中に多様な世界を感じ取っていただきたいと思います。
無常、虚空、はかなさ、相反するものの調和、……。それぞれの徒然草に対する解釈があるのがおもしろい。
今回は、例年以上に、学生さんの作品に秀作が多かった。
実作部門は、味わいを重視して審査した。従来の京菓子の概念にとらわれず、自由な発想で新しい味わいの創出に挑戦しているものに惹かれた。デザイン的にも、心象風景を表すような抽象的・哲学的な表現のものが多く、フォルムや色彩の美が目を喜ばせてくれた。中でも、現代建築の意匠のような鋭利なデザインに目を奪われた。
本展から、新たな京菓子のスタンダードが生まれるのを楽しみにしている。
色々と自粛が続き、茶会が無くなることで和菓子にふれたり趣向の和菓子を考える機会が無くなり、創作にも停滞が続いている日々であります。
今回は徒然草のデザインで、多くの方々が応募され、沢山の和菓子が見れた事を喜ばしく思っております。全体的には個々にまとまりのある良い菓子であり、実作部門においては、餡の素材などの工夫がされて、食べる事によってあらためて作者の思い入れを感じる様におもいます。また茶席で使って存在感があるのではないかなどと想像しながら選ばせていた作品は数点ありましたので、それぞれ票を入れさせて頂きました。
茶席菓子実作は審査の時も試食用に菓子を何点も制作できる技術の方々が多く応募されておられるのも毎年感心しております。今年も美しい数々の菓子が展示されるのを楽しみにさせて頂きます。
今年もまた、応募者数は昨年を上回り、過去最多となった。各地で、さまざまな催しが制限される一年だったが、その中で、京菓子に心を寄せて貰えたのは幸いであった。
応募者数が増えるにしたがって年々レベルは高くなっており、今年も激戦だった。『徒然草』効果なのであろうか、とくに上位の作品はそれぞれ個性的で、審査では票が分散した。
デザイン部門では、作品が実作されると、必ずデザイン画との微妙な違いが生ずるものだが、そこが菓子職人とのコラボレーションの面白さと言える。斬新なデザインには、素材の工夫や製菓の技術で迫ってゆく職人の心意気も見所であった。実作部門におけるデザインにも秀逸なものがあり、完成度は高かった。あざやかな色彩、意表を衝く形状で目を引きながらも 茶席菓子としての節度が見られる作品は、「京菓子デザイン公募展」のあるべき姿を現しているように思われた。なお、審査会では賞味もしており、味の要素も大きい。色 形・味の取り合わせには発見もあって、大いに楽しめた。
審査をしながら、改めて古典の素晴らしさに感銘を受けた。とくに今回は若い世代、学生の応募作品に大きなエネルギーを感じた。それは、古典に対して「難しい」といって壁を作るのではなく、「素直に読む」姿勢から得られるのかもしれない。コロナ禍において、有形無形の伝統的なものをどのようにして継承していくのかが問われている。京菓子展を通して、私たち一人一人が、京菓子をはじめ、これまで受け継がれてきた文化の尊さについて、改めて気づき、具体的な第一歩を踏み出すきっかけになればと願っている。