全体として完成度の高いお菓子が出そろってきていると感じます。また、年を追うごとに、いろんな面で洗練の度合いが進んでいるようにも感じます。
デザインの洗練さでいうと、京菓子である「象徴性」や「抽象化」された美しさのある京菓子らしい作品が多くなってきたように思います。
今回非常に印象的だったのは味です。ことに素材面で従来の枠にとらわれない大胆な試みがでていることが注目されます。「従来の枠組みにとらわれない発想」も見られました。しかし、一般の大衆的な菓子の世界では苺大福のようなものがすでに市民権を得ていることを考えると上菓子の世界は保守的すぎるのかもしれません。
今後は、外国の方も参加して、さまざまな試みがはじまるのではないでしょうか?また、10代20代の若者にとって和菓子とは? 京菓子とは?若者の創作意欲をそそる京菓子を、プロの側から提案する必要もありそうです。
「京菓子展」が、若者を巻き込む「新しい菓子」創造への起爆剤となることが期待されると感じました。
今年のテーマは2018年に続き2度目になる「源氏物語」ということで、どのような作品と出会えるのか、とても期待していました。同じテーマでも、一堂に会した作品からうける印象が異なりました。全体として、大変レベルが上がったと感じます。
『源氏物語』を読んで、おひとりおひとりがどのように感じて作品づくりに向かったのか、作品自身が「語りかける」ような作品が多く、大変楽しかったです。
デザイン部門は、皆さんがいろいろと思いを巡らせてデザインされたと感じました。実作部門は、デザインの斬新さ、意外性がありました。実食でさらに面白さがあふれ出る作品が多数あり、何よりも美味しかったです。そして、使用されている素材の斬新さは、どういった考えから生まれたのか知りたくなりました。
2018年と比較すると、全体のイメージが大きく変化したと思います。前回は全体的にどことなく「紫」イメージした作品が多かったと思います。それに対し、本年は「黒」であったり、シンプルなデザインの中に「味の意外性」があったりしました。2018年と本年は違う展覧会のイメージになりそうです。
応募者の皆様が『源氏物語』からインスピレーションを受けて作られた作品が、「審査」のときには私たち審査員に語りかけ、それを受け止めて審査をしました。「展覧会」をご覧になる方は、それぞれの作品がご自身に語りかけてくる「何か」を受け止めて、ご覧になる方同士で『源氏物語』を楽しんでいただけたらいいな、と思います。千年の間、多くの人が『源氏物語』を楽しみ、そこからまた様々な『源氏物語』の文化が生まれた、ということを今回改めて感じました。
『源氏物語』の解釈、そして、味、意匠と、それぞれに工夫を凝らした力作を今年も楽しく拝見しました。『源氏物語』はいろんな切り取り方ができる永遠のテーマ。これまで以上に、意欲的な作品が多く見受けられました。京菓子展に「新しい芽生え」が見えてきたようにも感じます。
デザイン部門は、受賞作品をはじめとして、繊細なデザインが多かった印象です。それを職人の方が実際に作ってくださって、とても素敵なものに仕上がっています。
茶席菓子実作部門については「攻め」を感じさせる力作ぞろいでした。特に、味わい。ブラックココア、ラムレーズン、カルダモン、バタフライピー……、はたして、どんな味わいなのだろうか?材料を聞くだけで想像力が広がります。もちろん失敗もあるでしょうが、挑戦を続けないと、進化は決して生まれません。また、意匠に関して言えば、デザインは新しくとも、やはり丁寧な仕事をしてあるものに惹かれます。しっかりとした技術に裏打ちされた美しさは、心地よいものです。
この京菓子展が、新たな菓子のカタチを生み出すきっかけになれば、と切に願っています。
毎回難しいテーマから多くの作品応募があり、そこから良い作品が生まれてくるのは、嬉しいことです。
今回のテーマは2018年と同じ『源氏物語』です。作品を拝見しながら、前回とは菓子展を取り巻く環境の変化や影響を感じました。時代の流れはもちろんのこと、影響としてNHK「光る君へ」の放送があるように感じます。
前回の「源氏物語」では、は本などから得た想像のイメージでつくられた作品がほとんどで、明るい女性的なイメージのする作品が多かったのに対し、本年は「黒」を基調にした菓子が多く見られ、ドラマでの黒い束帯を着て並んでいるシーンが影響したのではないかと、個人的に考えております。また紅葉などに関した菓子があまり見受けられなかったと言う気もいたします。
茶席菓子実作部門は、新しい素材、新しい味や食感に出合う事もあり、茶席菓子としてその美味しさに驚く作品も増えて、毎回応募者の和菓子に対するチャレンジ精神と深い愛情を感じます。今回も優秀な作品が多かったと思います。
総じて、応募作品はデザイン部門より実作部門の方が多く、応募者の力量が上がって来ているようです。
使用した素材についても、数種類が詳しく記されているものがありました。なかでも興味深かったのは、従来の伝統的な素材にはみられない、新たな素材を使って、ほどよくスパイシーな作品が出来上がっていたことです。奇をてらうのではなく、しかしながら新しい発見があり、茶席菓子の分を守りながらも、チャレンジする可能性が示されたといえます。
同様に色彩についても、茶席菓子らしい華のある作品が多い中で、今年は黒と金の取り合わせや、ダークな色使いが目立ちました。だからといって、ただ地味というわけではなく、よく見るとモノトーンの中に細かな細工が施してあり、あるいは鮮やかな指し色のコントラストがあり、作者のこだわりが感じられました。
今後も続くであろう、伝統的な美意識と新しい創意工夫のせめぎあいが、京菓子の次世代を開くことを期待します。
素晴らしい作品の数々でした。「源氏物語」は誰を、またどの部分を取り上げるかによって全く違う表現になります。審査では、他では見れない、味わえない作品が数多くありました。同じ題材でも、全然違うもの、バリエーション、工夫がある。素晴らしい作品に数多く出会えました。時間があれば、ゆっくり何時間もかけて、お抹茶と共に全部いただきたいぐらいでした。
東京から京都に戻ってきて感じることのひとつに、自然の豊かさとともに和菓子屋さんがたくさんあることです。また、有斐斎弘道館のような京町家、しつらえ、庭も残っている。こういう環境の中で育まれ、食されてきた京菓子は「気持ちをちょっと柔らかくする」のではないかと思います。それは京都の人が育んできた知恵とも言えるかもしれません。普段使っていない思考回路をつないだり、気持ちを切り替えたりできる。日常の中に、京菓子を五感で楽しむ環境に身を置くという知恵がある。そんなことを感じました。
このような京菓子文化を次世代につなげる活動を継続なさってきた有斐斎弘道館と京菓子をこよなく愛し、ご応募いただいた皆様に感謝申し上げます。
全体的にとても良く、食べてみたくなるような作品がたくさんありました。デザインや色遣いに、今年の大河ドラマの影響があるのかなという作品が見受けられまひた。逆に菓子から場面がイメージできるのは、それだけテーマに沿った作品が作れている証拠でしょうか。
全体的に落ち着いた印象の作品が多く、そのまま茶席に出しても納得いただける出来栄えだと思う一方、もうちょっと冒険したデザインがあってもいいかなと感じました。
今回、和菓子らしからぬ素材が入った作品が大賞を受賞しました。茶席にとどまらずいろんなシーンでいろんな飲み物にもあう菓子が今後も出てくるかなと思わせる作品ですが、茶席の菓子という点では好みが分かれるかもしれません。私自身はコーヒーに和菓子もOKです。
デザイン部門は、職人さんがデザインをもとに形にした実作品とイメージが違ってしまうことが多く、選ぶ悩ましさを今回も感じました。
今年、初めて審査に参加しました。全般的には非常に多様で、伝統に根ざすもの、先端的なものもありました。楽しく、また安心しました。
デザイン部門の審査で「応募デザイン図」と「実作されたもの(本物)」に違いや差がある、という議論がありました。それは必ずしも悪いことではなく、デザインがさらに実作されて面白くなっている場合もあります。イマジネーションで絵に書いたところと「実作されたもの(本物)」の違いもあっていい、というのがデザインではないか、と思います。
今年は「光る君へ」という大河ドラマ映像にインスパイアされたのかな、とも。例えば「装束」からのインスピレーションで、色でいえば「黒」。その傾向は感じました。
私は、コンピュータサイエンスやAIをやっています。近い将来に「AIと一緒に」お菓子をデザインしたり作ったりできたらな、と思っています。その観点からいうと気になったのは、お菓子のテクスチャー(質感)。半透明だったり、光ってる感じとか、最近では、ああいう微妙なテクスチャーを映像とか3次元グラフィックスで表現できるようになってきています。
ここに作品応募で参加される皆さんは、職人さんから学生さんまでいろんな方々がいらっしゃいます。また海外からの応募者もいらっしゃいました。どちらの部門も「門戸は広く、レベルが高い」感じがします。この京菓子展が、京文化、京菓子文化の新しいところをどんどん切り開いていくような、さらには世界に向けて京菓子の魅力を発信していく場になればよいと思います。
『源氏物語』は永遠のテーマだと改めて思いました。2018年にも同じテーマで開催しましたが、今回は、江戸時代の学問所「弘道館」として、当時、この物語が芸能や遊びのなかに取り込まれて庶民に広がっていたことも知っていただければと考え、再度テーマとしました。しかしながら、古典文学はますます馴染みのない遠い存在になっており、そもそもテーマとして難しいのではないか、また、前回に出尽くしていて新たな作品を期待することはできないのではないかという議論もありました。ですが、結果的に、テーマをより深く独自の視点で読み込んだ作品や、思っても見なかったような斬新な作品にいくつも出合うことができました。また、作品の数々から、「古典の物語についてもっと知りたい」という意欲や熱意を感じることができました。古典の現代性、可能性をかえって思い知らされた次第です。
また、「これは京菓子といえるのだろうか」と審査員を悩ませる作品が数多く登場したことも嬉しいことでした。悩ませるということは、京菓子の概念から外れているのではなく、逆に、大いに京菓子的である、ということかもしれません。
京菓子は、他の伝統文化と同様、伝統的な技術や美意識を受け継ぎながらも、相手(食べる人)を思い、一点一点、意匠や素材に工夫をこらして作られてきました。つまり、日々新たな菓子が誕生し続けているということなのです。
なお、今回は、応募に際して、「食べてもらう相手」を記載していただきました。テーマだけでなく「相手」を考えてほしいという意図です。また、公募という特性上、器を統一して展示しておりますが、本来は「器」は菓子制作における重要な要素です。そのため、特別企画として、器と菓子とのコラボレーションを意図した展示を行います。京菓子展を通して、日本文化の可能性をご一緒に発見し、また切り拓いていくことができればと思います。