京菓子展2022「枕草子」審査movie from 有斐斎弘道館 on Vimeo.
『枕草子』は、三大随筆がテーマだった昨年の「古典の日」朗読コンテストでも、中高生に図抜けて人気がありました。片渕須直監督がアニメ化するプランもあるそうですね。ただ今回、審査会で見た作品は、春はあけぼの、あてなるもの、など、対象章段が、少し限定的だった気もします。『枕草子』の世界は多様で、奥深い。終わりの方には「海」の実景が出てきたりもします。
今年、7月24日の祇園祭後祭の山鉾巡行の日に、有斐斎弘道館で『枕草子』の講演をしました。その時に話したのですが、清少納言は祭りが大好きで、賀茂の祭りなど、競うように見物し、いきいきと描写しています。私は、ロックミュージックのように「グルーヴ」している、と譬えてみました。一方、フィンランド・ヘルシンキ出身のミア・カンキマキという人は、英訳の『枕草子』を読んで魅了され、清少納言を「Sei」と呼んで恋い慕う。そして日本にやって来て、ついに『清少納言を求めて、フィンランドから京都へ』という本を書き、去年、ずいぶん話題になりました。古典もなかなかグローバルです。
『源氏物語』は、西暦1008年の『紫式部日記』の記事を典拠として千年紀を讃えられ、11月1日の「古典の日」を生み出しました。対する『枕草子』のエポックは、文字通り西暦1000年(ミレニアム)です。長保2年12月16日、出産の翌日に中宮定子が亡くなって、『枕草子』の世界は終わる。細かく言うと、定子が没したのは西暦1001年の1月にあたる、とか、定子の崩年は藤原行成の日記『権記』に24歳と記すが、他の史書では25歳とある、とか、『枕草子』の成立や由来、清少納言のその後についても不明なことばかりで、すっきりしないことも多いのですが、それはそれ。私たちも、カンキマキさんにならって、心の中で「Sei」と呼びかけ、京菓子展の『枕草子』とそのミレニアムを味わうことにいたしましょう。
今年のテーマは『枕草子』ということで、どのような作品と出会えるのか、楽しみでした。実作部門は応募時に提出された写真の技術、見せ方もアップされており、実際に目にし、味わうことが楽しみでした。デザイン部門もコンセプトがはっきりしていたと思います。全体に応募シートはレベルアップしていると思います。その反面、実際の作品とのギャップがあるものも多かったように思います。写真映りは良いもの、反対に写真はそれほどではないけど作品は良いもの、あるいはこだわりすぎていて、食べにくいものなど。最終的には、実際に味わってどうかという点を評価しました。
また、『枕草子』という作品のもつ印象のためか、全体にふんわりとやわらかい雰囲気の作品が多かったです。近年の禅や『徒然草』とは異なり、面白みや蘊蓄が欠けていたのが残念でした。テーマを深く掘り下げて挑むことに期待します。
今回、小さなお子さんの応募、入選があったことは喜ばしいことです。この取り組みが広がっている証しでしょう。
京菓子を通して、古典を魅力、面白さが、ますます伝わっていけばと願います。
「京菓子デザイン公募展」、そして京菓子のさらなる発展に期待します。
本年も力の入った作品が多く、審査は大変悩みました。
私は毎年デザインの視点で評価させてもらっています。その視点でいうと今年は少し大人しい作品が多かったと思います。枕草子というテーマが、自然や季節を題材にしていることも多く、京菓子には馴染みやすいものだと思います。それがかえって馴染みのある表現や、記憶にある表現にとどまってしまい、例年のような「完成度より新しさが際立つ作品」が少ない結果になったのかもしれません。
毎年お話ししている内容ですが、デザインにとって大事なのは、テーマを抽象化したうえで、多くの人が共感するシンプルな具体表現に再構築していくことです。今回のように比較的表現しやすいテーマの時は、抽象化が足らずに再構築してしまいがちのようです。
そうした中で今回審査員特別賞に選ばせてもらった、鈴木昌子さんの「瑠璃の軌跡」は、テーマをしっかり抽象化して、プロポーションとして明確な「小ささ」表現と、「瑠璃」を京菓子イメージよりは宝飾品のような表現に展開され、大変魅力的な作品に仕上がっています。このお菓子がふるまわれるときの器や、空間、服装までがしっかりイメージされているように感じられました。
今後とも、守るべきものは守りつつ、常に新しい挑戦をしていただければと思います。
去年に続き2回目の審査。ワクワクしながら参加しましたが、作品のレベルが上がっており悩みました。素晴らしい作品の数々が実際に展示されるのを楽しみにしております。
今年はアバンギャルドさが足りないように思いましたが、その中で、2歳のお子さんの絵が京菓子になったということは一つの発見でした。造形はいろいろ展開できますが、特に京菓子としての味の幅・香りの幅というのがもうちょっと広がってほしいなというのが今回の印象ですね。
枕草子はみんな中学校・高校時代で習っていますが、実はもう忘れてしまっている世界で、現在の人にはちょっと遠いかもしれません。ただ、昔のものをちょっとまた引っ張り出して読んでみるというのは、いいチャンスにはなると思います。
まず、有斐斎弘道館の濱崎館長をはじめ、職人さんなど、京菓子展の開催に御尽力をいただいた全ての皆様に感謝申し上げます。
「およそ1,000年前に著された『枕草子』を読んで、お菓子を作ろう。」
このような催しを実現できるのは、世界の中でも、悠久の歴史を誇り、文化や季節感を大切にしてきた京都という街しかないと感じます。
2歳のお子さんからベテランの職人、あるいは学生など、様々な方々が、枕草子から感じたことを、感性豊かに京都が誇る京菓子として表現されている。枕草子の素晴らしさと同様に、感銘を受けました。
さて、今般、「京料理」が登録無形文化財に登録される見込みです。また、「京の菓子文化」は、“京都をつなぐ無形文化遺産”に登録されています。令和5年に京都へ移転する文化庁ですが、「食文化」も大切にされるとお聞きしています。これを契機に、有斐斎弘道館をはじめ、皆様のお知恵を拝借しながら、京の菓子文化を国内外に発信してまいりたいと存じます。
「ものがたりを食べる」というテーマが秀逸でした。作品の幅も広く、楽しく審査させていただきました。2歳から年配の方まで、幅広い年代の方が応募してくださったのも嬉しいことです。和菓子には、日本の美が詰まっています。和菓子を入口にして、日本の美に、より興味をもって頂けたらありがたいです。
テーマにふさわしく、作品の背景にある作者の家族の物語や人生まで感じられるような深みのある作品が多くみられました。具体と抽象、いずれの作品も魅力的でしたので、各部門でそれぞれを代表する作品を選びました。思わず「かわいい」と声が出てしまうような、愛らしい作品も印象的でした。和菓子はある程度こういうものだという既成概念がありますが、それを逸脱したデザインが出てくるのが非常に面白いです。こういう審査会ならではだな、と思います。
毎年観させていただいているんですけども、今回は落ち着いた作品が増えてきていました。だからかといって意をてらってというわけでもないんですが、やはりデザインの可能性や面白さというのをこのような場で挑戦する、というのは面白いのではないかと思います。たとえばお茶の世界では、茶席ではあまり顔の付いたものは選ばないんですが、これはお茶席では出せないというような菓子が店先に並ぶと逆に売れることもあります。ターゲットを一つだけに絞ることなく、より幅広い目で見た楽しいデザインがあっても面白いのではないでしょうか。
毎回難しいテーマですが、そのテーマの中で、硬い内容でくるか、柔らかく楽しい部分を見出してくるか。それは作り手やデザイナーによって変わっていきます。自分に適した良いところを摘んでデザイン化する。本当に小さな和菓子ですが、今まで何100年もそのデザインというのは続いてきているわけですから、そういうのを楽しんで自分独自のものをまた応募していただきたいと思います。
今回初めて審査に加わらせていただきまして、非常に素晴らしい作品がたくさん出されていて驚き、その分選ぶのにとても悩みました。
特にデザイン部門では、若い人達や学生の方がとてもたくさん応募されていて、古典をテーマにしたものにこれだけのたくさんの方が応募していただいているということに驚くと同時に、私は古典の日推進委員会で活動しているものなので、そのことは大きな喜びともなっております。ただその中で、デザインをそのままもとにお菓子職人の方が作られるので、デザインされた方の思いをそのままうまく表現できる・できないという部分もあるのかなと思い、今回私はデザインを重視して選ばせていただきました。とても皆さんの作品に楽しませていただきました。
実作部門につきましては、お菓子職人のプロの方が多く、味も食感もすばらしい出来栄えでした。私は和菓子ファンで特にあんこが好きなので、その点でも楽しみました。本当に選ぶのが難しく、まずは自分が食べてみたくなるというところから入り、その次にきれいさや京都らしさなど、そのテーマに沿っているかというようなところを考えながら選ばせていただきました。
なかなか大変な作業でしたが、また来年以降もまたこういう形で楽しく審査会ができればいいなと楽しみになっております。本当にありがとうございました。
今年もありがたいことに600名近くの方が応募して下さいましたが、レベルも年々上がってきており、大変ハードルの高い競争でした。作品それぞれが非常に美しく、学生さんの応募が多かったことも心強いことだったと思います。
ただ、茶席でいただくものなので難しいところですが、京菓子の発想を大胆に覆すような作品が、もう少しあってもいいように思いました。できるだけ新しいことに挑戦していただきたいと期待しております。回数を重ねるごとに、我々の要求が高くなって来ており、中には厳しい意見もありましたが、それもこれも年々皆様の実力が上がってきている故でしょう。
手の込んだ、色も形も細工もよく考えられたものに見とれる一方で、簡素な、なんていうことのないものに心惹かれる気持ちも起こり、その両方が成り立つのが京菓子というものの懐の深さ、幅の広さであると思います。一堂に並んだ中で評価するのは大変苦心しましたが、さまざまな作品が一斉に集まるということが、公募展にとって意義のあることだと思いました。
今年のテーマは『枕草子』なので、参考にされた本の中に出て来る段が限られているためか、お菓子のテーマも重なっていましたが、古典文学作品に親しみ、アイデアを得ていただければと思います。
昨今の社会情勢から、身のまわりの暮らしや地球環境について改めて考えさせられる日々。千年前に書かれた随筆「枕草子」を通して、「今」をどう捉え、どう生きるべきかをご一緒に考える機会になればと、テーマを選定しました。季節や自然といった、京菓子にとってはやや表現され尽くされた感のあるテーマは、意匠としての新しさの表現が難しかったかもしれません。逆に、京菓子らしさは表現しやすかったかもしれません。京菓子を「作る」「デザインする」行為は、京菓子の文化を継承するとともに、新たに作り上げていくことでもあります。展覧会をご覧になる方は、一つ一つの菓子作品の背後にある「ものがたり」を読み解く喜びを感じ取っていただければと思います。「ものがたり」とは、菓子のもとになったテーマである枕草子であり、菓子の作者の思いであり、また小豆や寒天といった素材であり、それを菓子にまで作り上げる時間や、その技法を開発した無数の古人たち・・そのすべてが「ものがたり」です。一つの菓子からどこまで「ものがたり」を読み取ることができるのか、挑戦していただければ幸いです。